「青色の詩」

INTRODUCTION

都会を好きになった瞬間、
自殺したようなものだよ。
塗った爪の色を、きみの体の内側に
探したってみつかりやしない。
夜空はいつでも最高密度の青色だ。
きみがかわいそうだと思っているきみ自身を、
誰も愛さない間、
きみはきっと世界を嫌いでいい。
そしてだからこそ、この星に、
恋愛なんてものはない。
(詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』より「青色の詩」)

インスタントな自分語りとコピペされた悪意が量産される世の中で、言葉の生命はすり減っていく。そんな時代に、最果タヒは詩を生んだ。

彼女は2008年当時、女性としては最年少の21歳で第13回中原中也賞を受賞するなど、「いま最も新しい表現者」として注目されている詩人だ。現代詩が持っていた“難解”なイメージを覆し、わかりやすく日常的な言葉の連なりで、小説やポップソングやマンガやアニメだけではつかみきれない、現代人の憂鬱と希望を浮き彫りにする。

16年5月の発売以来、現代詩集としては異例の累計27,000部の売上げを記録している最果タヒの「夜空はいつでも最高密度の青色だ」。世代や性別を超えて熱烈な支持を受けているこの傑作詩集が、誰も予想していなかったかたちで映画として生まれ変わった。

詩をドラマとして表現することに挑んだ脚本・監督は、33歳にして本作で12本目の長編映画となる石井裕也。

24歳でアジア・フィルム・アワード第1回「エドワード・ヤン記念」アジア新人監督大賞を受賞、その後もロッテルダム国際映画祭や香港国際映画祭でも特集上映が組まれ大きな注目を集め、『川の底からこんにちは』(09)で日本映画史上最年少の 28歳で第53回ブルーリボン賞監督賞を受賞、さらに13年『舟を編む』で第37回日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ数多くの賞を受賞した。日本のみならず、世界でいま最も期待を集めている若手映画監督である。そんな石井裕也監督の最新作となる本作では、現代の東京の片隅に生きる若い男女の、言葉にならない感情の震えを映像にすくい取り、優しく愛おしい、リアルで繊細な恋愛映画として完成させた。

ヒロインの美香に抜擢されたのは新人・石橋静河。看護師をしながら夜はガールズバーで働き、しっかり地に足をつけた生活を送りながらも、不安と孤独と不機嫌を胸の奥に抱えている美香を全身で演じきる。そんな美香と出会う慎二に池松壮亮。工事現場で働きながら、社会に適応しきれない自分にもがく青年の姿を、稀有な存在感で演じる。

「俺って変だから」
「へえ、じゃあ私と同じだ」

死の予感ばかりがあふれている息苦しい現代の東京で、自分の居場所を見失った二人が、互いに向き合って初めて見つける希望。早くも石井裕也の最高傑作との呼び声が高い、最高密度の恋愛映画が誕生した。